故郷のリトアニアのレクター城から離れフランスでの新生活を始めたハンニバルであったが、過去の忌まわしい記憶を忘れることはありえなかった。
それは家庭教師のヤコフ先生の教えにより記憶の宮殿を自身の頭の中に構築したことによるものであるが、忘れえぬ記憶方を習得したがために妹ミーシャに起きた悲劇は幾度となくハンニバルの中で繰り返され、ある意味そのことによりフランスで最初の殺人を犯してしまうのである。
忘れえない妹ミーシャの記憶
自分のかつての住まいであったレクター城での孤児院生活から脱したハンニバルであったが、心の平安はフランスに移り住んでからもなかなか訪れはしなかった。
叔父のロベール・レクターや叔母の紫夫人から、絵画や日本文化の教えを受けることはハンニバルにとって閉ざされた心を解きほぐすのに役に立ったが、依然として悪夢にうなされ、言葉を発することは無かった。
そんな中、紫夫人と一緒に市場に買出しに出かけたときに、夢に出てくる妹ミーシャを殺害した一味のリーダー「青目」ことヴラディス・グルータスを思い起こさせるポール・モマンと遭遇してしまったのである。
運命的な出会い
ポール・モマンはフランスにおける親ナチ傀儡政府であったヴィシー政府の支持者であった。そのため周囲からは敵意を持って見られていたようである。
ハンニバルと
ポール・モマンとの出会いは偶然とはいえ、ハンニバルにとって一線を越える事件に発展してしまった。
ポール・モマンは閉ざされたハンニバルの心を解きほぐそうと尽力していた紫夫人を侮蔑してしまったのである。
たまた彼の目の色が青かったために、ハンニバルは妹ミーシャの殺害の復讐と重ね合わせて、紫婦人に対する侮蔑の責任を命をもって償わせたのである。
これがハンニバルの最初の殺人であり、怪物の誕生の瞬間と言えるのでないだろうか。