バッファロウ・ビル事件でキャザリン・マーティンが誘拐されてすでに4日が経過していた。
犯人がキャザリン・マーティンの皮を剥ぐのにもう時間の猶予がなかった。
自分の五感すべてが訴えている「犯人の手がかりは最初の犠牲者の近辺にある」という心の中の声に、ついにクラリスは行動を起こすことを決意した。
この決断により、FBI捜査官としての道が閉ざされるかもしれない状況にあったにもかかわらず、クラリスは自身の信念に従って決断を下したのだ。
ついにバッファロウ・ビル事件を解決
最初の犠牲者フレドリカ・ビンメルについて再調査を始めたクラリスは、それまでのハンニバルとの面会から得た情報と、犠牲者の体格からついに犯人が何のために皮を剥ぐのかの結論に至った。
なんと、犯人は叶わなかった性転換手術の替わりにに、自分が着る女性の皮から作るスーツを作っていたのだ。殺人はその素材集めのためであった。キャザリン・マーティンを選んだのは、それまでそろえた素材の中で不足していた乳房の部分を手に入れるためである。
クラリスがこの結論に至った頃FBIでは、ハンニバルからの情報「犯罪暦のある性転換願望者」と、犠牲者の口の中にあった非常に珍しい蛾のさなぎの入手ルートから犯人の実名を割り出しており、SWATと共に犯人確保に動き出していた。
その場所はクラリスの居るオハイオ州ベルヴェデアではなく二つとなりのイリノイ州シカゴであり、クラリスにとっては犯人確保の現場に向かうのには遠すぎる場所であった。しかし、その住所は犯人のジェイム・ガムが仮の住まいとして使っていた住所にすぎなかった。
なんとジェイム・ガムの真の住まいは、クラリスが再捜査していたオハイオ州ベルヴェデアにあった。
そのことを知らないクラリスが、犯罪の立証のためフレドリカ・ビンメルの追跡調査で行きついた所がジェイム・ガムの住居だったことは偶然であったかもしれない。
しかしながらジェイム・ガムの住居を訪れた際に目にした蛾から犯人を確信したクラリスは、暗闇の中での銃撃戦の末についに犯人を射殺し、処刑直前のキャザリン・マーティンを救出したのである。
事件をキャザリン・マーティンの救出と共に解決したことは、窮地に置かれていたクラリスの立場を一転させるのに十分であった。クレンドラーの抗議は引き下げられ、訓練校の時間の問題も解決したのである。
なかでも心の中の洞窟に木霊する子羊の悲鳴を再び聞くことがなくなったことは、クラリスにとって望外の結果であった。