グルータスはバルバロッサ作戦開始直後の1941年6月23日に早くもレクター城でレクター家の使用人を殺害している。
このとき、城主であるレクター伯と一家は使用人たちをともない、狩猟ロッジに非難していたが、コックと庭師のエルンストは厨房の備品の梱包のためにレクター城に残っていた。
グルータスはドイツ軍の信頼を得るために、この二人を殺害したのである。
略奪の愉悦に魂を売った男
ドイツ軍にとってレクター城はソ連へ攻め入る途中の通過点でしかなかったが、最初から略奪が目的のグルータスにとってはまったく違っていた。
リトアニアに古くからあるレクター城は略奪品の宝庫であり、捻じ曲がった魂の持ち主にとってはぜひとも侵入したい場所であった。
運良くドイツ軍より先にレクター城に入ることができたグルータスは、貴重品を片付けているコックがワインラックの裏の秘密の隠し部屋に入るところを偶然に目撃している。
コックは城を離れるに当たって貴重品を略奪者から守るために作業していたのである。
そのことに目ざとく気づいたグルータスがとった行動、すなわちドイツ軍に秘密の隠し部屋を知られる前にこの部屋の存在していることを知っている人間を亡き者にすることは、略奪の愉悦に魂を売った男として当然のことであった。
結果としてこの隠し部屋は、戦争が終局に向かい、ドイツ軍の代わりにソ連軍がレクター城に入ったときも略奪を逃れることができた。しかし最後にグルータス一味に押し入られ、すべてが持ち去られたのである。